「暑い……」
思わず、声がもれた。
放課後の教室。秋も近づき、日が涼むのも早くなってきた。私以外は誰もいない教室。開け放たれた窓からは、野球部の掛け声が聞こえていた。
「めんどくさい……」
目の前の原稿用紙。私は今日の午後六時までに、感想文を書き上げなければならない。
読書感想文。不覚だった。夏休みの後半に入るまでに宿題をそうそうと切り上げ、悠々自適に過ごしていたあの頃。読書感想文が、新書でなければいけないなんて、私は聞いていなかった。正確には、宿題一覧のプリントには記述があったけど、毎年の感覚で、適当に見繕った本で書いたのだ。結果として、私は読書感想文を書き直すはめになる。
まさかこんなところに刺客が残っていようとは……。原因は私だけど。宿題の残骸処理のために、この暑い教室に残っている。さっさと書き上げて帰ってしまいたいのだが、どうにも筆が進まない。端的に言えば、気分が乗らない。
どうして読書感想文を二回も書かねばならぬ。いいじゃないか、古典のホラー小説でも。成績減点でも、私は全くかまわないというのに。
感想文をなんとか書き上げて、職員室に行って提出する。なんとか時間までに終わった。
しかし、宿題をあんなに出してなんになるというのだろうか。生徒と勉強の関係に亀裂が入るだけではなかろうか。
とりあえず、家に帰ってホラー小説でも読もう。