私は今、この砂漠で福音に触れようとしていた。
私は旅の途中、この砂漠に迷いこんだ。だが、迷い込んだという表現は適切ではないかもしれない。私は旅をする上で、自らこのルートを選んだのだから。砂漠を突っ切るルートと、迂回して隣国から、自国へと戻るルート。前者の方が早く帰国できるため、私は砂漠を突っ切ることにしたのだ。
しかし、である。道中、砂嵐に遭遇してしまい、道を見失ってしまった。どうしようか、と考えたが悩んでも仕方が無い、歩き続ければやがて出ることができるだろうと思い、歩き続けた。
幸い、砂漠とはいえそこまで広くは無い地域だ。まっすぐに歩き続ければ、半日ほどで周囲の街道にたどり着ける。
そして二時間ほど歩いた頃である。喉の渇きが強くなっていた。ふと、右手のほうから涼しい風が吹いてきた。かつて、耳にした砂漠における福音の話だ。旅人が時折、砂漠で涼しい風を感じたとき、精霊の加護を受ける、という話だ。その涼しさに身を任せていた――が、
「冷たっ!」
風じゃない、風どころじゃない、冷たっ!
突如、眼前の砂漠は蜃気楼さながら消えうせ、目の前にE子の顔があった。
「あ、起きた」
「……何したの」
「ん」
とアルミ缶のサイダーを差し出してくる。
「幸せそうに寝るね」
「……ほっとけ」
そういう俺の右頬が濡れていた。