2016/09/23

027 (島、十字架、最初の才能)<偏愛モノ>

 


 この無人島で暮らして、もう五年が経つでしょうか。


 あなた様が亡くなって三ヶ月たったある日、私は才能をようやく見つけることができました。


 こうして改めて、あなた様のお墓にお話しようと思います。
 あの酷い嵐の日、遊覧船から投げ出された私たち二人。意識無く海を漂い、目が覚めたときにはこの小さな島の浜辺。一緒にいた執事も、叔母様も、その他、乗り合わせていた旅人の方たちは見当たらず、あなたと私、二人だけがこの島に打ち上げられておりました。私が先に意識を取り戻し、あなた様の肩を揺すると、すぐに気を取り戻されました。幸い、私にもあなた様にも目立った外傷はなく、胸を撫で下ろしたことを覚えています。
 とはいえ、このような無人島に、いつ助けが来るのか、そもそも助けが来るのかもわかりません。ひとまずは食料を見つけ、生き抜いていく必要がありました。私はこのような経験は初めてで、おろおろするばかり。ところが元船乗りであったあなた様は島の魚を取り、食べることのできる植物を見つけ、簡易的な小屋まで建ててくださいました。私はまったく役に立てず、申し訳なく思っていました。
「私にはあなたのような才能はないわ」
と申すと、
「君の才能もいつかきっと見つかる。今は僕が君を助ける」
というあなたの言葉に、いつも心が救われる反面、気持ちが暗くなり、複雑な気分でございました。


 しかし、助けは来ず、あなた様はお亡くなりになりました。


 病気に弱る中、あなた様の最後の遺言は、向こうで君を待っている、という大変に喜ばしいものでございました。
 あなたが亡くなった後、私は穴を掘り、御体を埋葬し、簡便ではありますが十字架を立てました。そして、茫然自失とする中、このまま餓死してしまおうか、と考えておりました。あなた様が好きだった、この海の見える丘で。
 ところが、です。
 ある日、一つの船がこの島を訪れました。小さな船で、乗り組み員は三人ほど。私を国まで送り、あなた様の骨も運んでくれるといいます。


 私は最初は頷いたのですが、しかし、申し出を断りました。
 断るどころか、その方々を、あろうことか、殺してしまったのです。理由は私にもわかりません。この島での長い無人島生活が私の性格を変えてしまったのか、本性が現れたのか。
 それとも、私を励まし続け、支えてくれたあなた様を、この島でひとりじめしたかったのかもしれません。
 その後も何度か、同じように船が訪れました。その度に、私は船員を殺し、海に遺体を捨てました。


 私にも理由は分かりません。しかし、私には人殺しの才能があるようでした。
 私はいつか死んだとき、あなた様に、ようやく才能を見つけることが出来たことを、報告する日を夢見て、今日も海を眺めています。