2016/09/23

025 (曇り、目薬、最後の大学)<SF>

 


 


 どんよりとした灰色の空の下、第一体育館は喧騒に包まれている。
 今日、私は大学を卒業する。四年間通った大学を卒業するのは、なかなかに感慨深い。サークルに研究室、色々と思うところはあるが、何よりもまず、今日という日に、この大学の上の曇り空が不思議であった。
 というのも、人類が天候をある程度管理することが可能になってからというもの、この大学はこういった大きな行事の度に人工的に晴れを作り出していたからだ。それからというもの、入学式は晴れ、卒業式も晴れで、特に学園祭などは野外でのパフォーマンスは雨天中止の心配が無くなり、学際実行委員の懸念事項が一つ減ったという話だ。
 なぜそんな事が一大学に許されるのか。それは、私が生まれる少し前に、この大学の研究から生まれた技術であるからだ。以来、大学から半径二キロメートル圏内は、排他的にこの大学が天候を支配しているといえる。
ゆえに、特に卒業式というハレの日に、曇り空であるということを許しているのかが不思議だった。


 


 第一体育館に入ると、受付で粗品を渡された。黒塗りの拳大ほどのプラスチック箱。なんだろう? と開けてみると、中には目薬が入っていた。
 目薬? 何で? と思ったが、考えても検討がつかない。
 そうこうする内に、卒業式が始まった。式辞通り、滞りなく行われていく。そして、学長の言葉となった。
「皆さんはこれから社会に出て行く訳ですが、――」
 御決まりの定型句。そろそろ終わりだな、と私は考えを自らの大学生活にうつしていた。色々あったなあ、と思い返していたのだが、
「さて、私の大学生活で一つだけ心残りがありました。卒業式で涙を流してしまい、友人に笑われたことです」
 ……なんだかよくわからないが、学長の言葉の雲行きが怪しくなってきた。
 その後もいかに恥をかいたのかを語り、最後に、
「ゆえに、今年の卒業式はあえて曇りの日にしました。そして目薬も配布いたしました」
 これで涙を誤魔化しましょう――と。


 


 ……あー、よくわからないが学長のエゴだ。
 館内は少々ざわついているが、そりゃあそうだろう。意味がわからない。


 


 何はともあれ卒業式が終わり、体育館からぞろぞろと人が出て行く。
 まー変な大学だった、と思いながら歩いていると、なんと、実際に涙を流し、そこに目薬をさして誤魔化そうとしている奴がいた。大変に感受性が豊かである。空を見上げると、曇り空からぽつ、ぽつと雨が二、三滴ほど顔に降りかかる。このまま小雨になってしまうのだろうか。


 


 懐から先ほどの目薬を出して、両目に二、三滴ほどさした。曇りのせいか雨のせいか、はたまた目薬の性だろうか。焦点が少しずれて、滲んだ視界に四年間を過ごしたキャンパスが浮かび上がる。
 ……私は私で、おろしたての靴が雨に濡れそうで、ちょっとだけ泣きそうだ、なんて。


 


 もう一度、目薬をさしておいた。